SURPRISE★Present

強い日差しが照りつける午後の一時、およそこの天候の所為だけではない重く沈んだ表情を浮かべ、九郎は春日家の門前に立っていた。

結い上げたオレンジ色の髪を揺らす風さえなく、熱気に充満されている中で家人が出てくるのを待っている九郎の側には、いつでも付き従うようにくっついている無二の親友も何かとちょっかいを出してくる少年もやたらと九郎を独り占めしたがる青年もいない。珍しい事に九郎は一人だった。

ややあって玄関の扉が開いて、中から一人の少女が姿を見せた。彼女は九郎の姿を認めて小走りに門の所まで駆け寄ってくる。

「九郎さん、こんにちは。どうぞ、入って下さい」
「ああ、済まないな…望美」

門扉を開け挨拶を交わしながら庭へと招く望美に、覇気のない様子で一言言ってから九郎は春日家の門を潜った。

そのまま望美が九郎を家の中へと案内し、九郎が通されたのは望美の部屋だった。ミニテーブル脇に置かれたクッションを示して座るよう促されて、九郎はそこへと腰を下ろす。

「それで相談したい事って一体何ですか?」

彼が座ったのを見届けて望美が尋ねると、九郎の表情が僅かに強張る。先程外で待っていた時よりも顔に落ちる陰欝な様子が増しているかのように思えた。

「…それは…」

望美から僅かに視線を逸らして歯切れ悪く呟く九郎は、何かを言葉にしたいが上手く口に出来ないという様子で躊躇っている。

「九郎さん、話してくれなきゃ解りませんよ?」
「あ、ああ…実は…」

急かすように望美に促されて九郎は困ったように眉を八の字にして口を開く。躊躇いがちに九郎の声が望美の元を訪れた理由を紡ぎ出した。

「以前…誕生日の話を教えて貰っただろう…?」
「え?あ、そういえば話したかも…」

いつだったか望美は九郎達に誕生日の事を話して教えた事があったのだが、それと今の九郎が相談したい事とが何か関係でもあるのだろうか。望美はそう思いつつ九郎が続きを話すのを少し待った。

「それで…もうすぐ、将臣の誕生日なのだと聞いたから…何か出来れば、と思うのだが…」

将臣―望美にとって幼馴染みであり、大切な仲間の一人だ。そして九郎にとっては仲間以上の存在である。その彼の誕生日が確かに間近に迫っていた。

「あ、そっか…確かに言われみればそうだよね。でもそれで私に相談って?」
「…将臣に何をしてやれば喜んで貰えるのかと思って…俺はどうもそういう事に疎くてな・・・お前なら将臣の事をよく知っているかと思ったんだ」

まさしくに真剣に悩んでいますという表情だ。本気で九郎はそう考えているらしい。

(・・・今将臣君が一番喜ぶのって…物とかより九郎さんだと思うけど…)

将臣のあの異常なまでの構いっぷりに九郎は自分で気付いていないのだろうか、そう思わずにいられない望美である。

鎌倉を追われた九郎を連れて全員で望美達の元いた世界へと来てからというもの将臣は、日夜九郎を口八丁手八丁で自分の方に引き込もうとする某元軍師や元頭領から守りつつ九郎は俺の恋人主張しているのだ。溺愛していると言っても過言ではないかも知れない。

「将臣君に何か贈りたい、そういう訳ですね…だったらいい案がありますよ♪」
「本当か?その案とは何だ、望美…っ」

望美から返ってきた言葉の奥に隠された真意に気付かない九郎はそれまで曇っていた表情をパァーッと明るくする。その単純というか素直というかといった様子がやけに可愛く見え、望美は思わず心の中でガッツポーズを作る。

(くっ…九郎さん可愛い…っ)

余りの九郎の可愛さに自分が女である事を一瞬忘れそうになったが、望美は気を取り直して九郎との会話を続けた。

「それはですね…今は内緒です。でも、私に任せて下さい…絶対将臣君が泣いて喜ぶような贈り物を用意しますから!」
「内緒、なのか…?…だが、お前が用意したのでは意味がなくなるのでは…」

九郎が将臣に渡すプレゼントを望美が用意するというのは些かおかしな話だと思ったのだろう。九郎は困惑の眼差しで望美を見てそう漏らす。
だが、望美は自信たっぷりな表情で九郎の眼差しを受け止めて答える。

「心配要りませんよ、私はちょっとしたお膳立てをするだけです。九郎さんは将臣君の誕生日当日、一人でまたここに来てくれればいいですから♪」
「…?そうか、解った…お前の言葉を信じよう」

望美の意図も知らずに素直に頷く九郎は、将臣の誕生日当日にまたここで会う事を約束すると望美の部屋を後にした。
部屋にはこの思いもかけない機会に表情を緩めるちょっと心の汚れた神子が一人。

(ふふ、ふふふ…これは素敵な事になりそうだわ…待ってなさい、将臣君…飛びっきりのサプライズをプレゼントしてあげるよっ★)

窓の外の照りつける太陽のように燃え盛る熱気を纏って望美は握り拳を作るのだった。



かくして将臣の誕生日当日を迎え、九郎は朝早くに呼び出され望美の部屋を訪れていた。誕生日を祝われる将臣本人はというと、望美のサプライズプレゼント作戦など露知らずで自室にて暢気にまだ惰眠を貪っている。

「…あー、それにしても私って最高?これ絶対将臣君が感激する事間違いなしだよ〜♪」
「…望美…」

何やら自分で自分を褒め称えて悦に入っている望美に呆れた顔の九郎が溜息混じりに彼女の名を呼ぶ。

「え?何、九郎さん?」

何故か表情の暗い九郎を見て望美はどうかしたのかとでも言うような視線で九郎を見やって応えた。その、とても悪気はないのだと言わんばかりの自信たっぷりの表情に九郎は逆に気が滅入りそうになる。

「…こ、こんなもので本当に将臣が喜ぶというのか…?」

拳をわなわなと震わせ、こめかみをピクピクさせながら九郎は鏡に映された自分の姿から目を背けた。
それはとても男の自分がするような格好ではないように思える。

ぴらぴらの短いスカートにはこれでもかとばかりにレースがあしらわれ、ワンピースタイプのスカートの上には清廉な白いエプロンも着ていて、中に着込んだシャツにはふりふりなデザインに加えて小振りのレースがついている。シャツの色は白でスカートの色は黒に近い紺色だ。

更に可愛らしく結わえ上げられた髪にはスカートとお揃いの色のリボンが結ばれ、そのリボンの位置より手前には白いレースのついたカチューシャも着用していた。
俗に言うメイド服そのものなファッションをした自分の姿を、九郎は直視出来ずに困り果てるばかりだ。

「大丈夫ですよ〜、すっごく可愛いし!」
「なっ!馬鹿かお前は…っ、それは俺などに使う言葉ではないだろう!?」

望美に可愛いなどと言われてあからさまに動揺しながら九郎は捲くし立てる。その様はますます九郎を可愛らしく見せて。

「そんな事ないですって〜本当にすごく似合ってて可愛いんだから!」
「…嬉しくない…」

メイド服姿の九郎を絶賛する望美の態度に何も言い返す気もなくなって、九郎は落ち込みつつそう零した。

「さ、将臣君を起こしに行きましょう、九郎さん!」
「…っ…」

出来る事ならこのような恥ずかしい姿を将臣の前に晒したくはないというのが九郎の本音だ。だが、将臣が喜ぶと望美が断言するのならば、背に腹は代えられない。

九郎は己の恥を忍んで将臣を祝う為に先を歩く望美の後に続く。将臣の驚く顔を想像してか上機嫌な望美の歩みは常よりも速かった。

「誕生日のプレゼントがメイドに扮した九郎さんだって解ったら、将臣君すっごく喜ぶだろうな〜♪」

全開の笑顔で声を弾ませる望美とは対照的に九郎は不本意極まりないといった顔で唇を引き結んでいる。予想外の自分自身を贈るという事態に、少なからず九郎は焦りと緊張を覚えていた。



望美が将臣の部屋へ入ると、将臣はまだベッドの中にいた。室内の空調は扇風機だけで、よくこの暑い中寝ていられるものだと望美は感心せずにいられない。
とはいえこのまま寝かせていても話は進まないので、望美は掛布団代わりのタオルケットを剥ぎ取って将臣の体を揺らした。

「将臣君、起きて!」
「ん…あ〜…何だよ、望美…人の部屋に勝手に入ってくるのやめろって…」

強引に揺り起こされてまだ眠そうな目を擦りながら将臣はベッドに起き上がる。幼馴染みだとはいえ、男の部屋に勝手に入ってくる望美に文句を言うと、望美はそんな事はお構いなしという様子で口を開く。

「今日は将臣君の誕生日でしょ、ちょっとしたサプライズを用意してるからすぐ下に来て欲しいんだ」
「あー…そういや、そうだっけ…サプライズって何だよ?」

今日の日付は8月12日、確かに将臣の誕生日当日であった。望美に言われるまでそれを忘れていたらしい将臣は、納得しつつ望美の口にしたサプライズの事が気になって尋ねる。

「それは見てからのお楽しみだよ、今言ったら意味がないじゃない」
「それもそうか…じゃ着替えたら下に行くからお前先に行ってろ」

用件は伝えた筈なのにいつまでも階下に移動しない望美へと将臣は先に行くよう促す。が、望美は足を止めたまま動こうとしない。

「何してるんだよ、先行けって。…まさか人の着替えを見るつもりじゃないだろ?」

幾ら望美でも着替えを見られるのは余り好ましくない事だ。もう子供ではないのだから気にするなという方が無理だろう。

「……チッ」

だが、望美は着替えを覗く気満々だったのか口惜しげに小さく舌打ちをして将臣の部屋を後にした。

「・・・おいおい、今の舌打ちは何だよ!・・・ったく…」

色々と間違った方向に成長してしまったらしい幼馴染みを少々不憫に思いつつ、将臣は手早く着替えを済ませて部屋を出るのだった。



将臣が一階のリビングまでやってくると、普段なら有川家に居候中の他の仲間達が集まっている時刻にも拘らず、そこには望美一人しかいなかった。

「…サプライズって何なんだよ、望美…お前しかいないみてーだが…」

いつもならこの時間はここにいる筈の梶原兄妹や九郎、九郎に付き纏うようにいつも周りにいる弁慶やヒノエもいなかった。
寧ろこのいつものメンバーがここにいない事がサプライズなのではないかと将臣が思ったその時、望美が話し始めた。

「朔と景時さんは二人でお買い物、リズ先生と敦盛さんも二人で出かけたみたいだし、弁慶さんとヒノエ君は今日は仕事だって言ってたよ」

更に譲も夏休み中とはいえこの時間は部活でいないようだった。そういえば九郎がどこにいるのかは聞いていないように思う。

「…ん?九郎は…?」
「九郎さんなら今はキッチンにいるよ?」

望美はしれっとした顔で答えた。それもサプライズの一環なのだろう。リビングに将臣を呼んでおきながら別室で九郎を待機させて、将臣が来てから九郎を呼ぶのだ。

「キッチン?何でそんな所に…」

九郎とキッチン。余り結びつきのある関係ではないように思えるのだが、とりあえず行ってみようと将臣はそちらへ足を向ける。

「あ、待って。九郎さんをこっちに呼ぶから将臣君は座って!」
「あ?ああ…何なんだ、一体?」

望美の行動の意図がいまいち掴み取れずに将臣は首を捻る。こっちに呼ぶと言って九郎のいるキッチンへと向かった望美を待つ為、将臣はソファに腰を下ろした。
程なくして九郎を連れてきたのか望美が戻ってきた。望美の後ろから渋る様子で九郎も姿を見せる。

「お待たせ〜。はい、将臣君。九郎さんからのサプライズプレゼント、受取らなきゃ私が貰っちゃうから!」
「…っ」

そう言いながら望美が九郎の手を引いて将臣の前に彼を突き出したものだから、九郎が慌てて顔を真っ赤に染めた。

「…く、九郎…?」

目の前に引っ張り出された九郎の姿に、将臣は一瞬自分の目を疑い一度視線を逸らしてからもう一度見たがやはり驚かずにいられなくて確認するように尋ねる。

「…ま、将臣…ご主人様、お誕生日おめでとう…ございます…」

そう言えと望美に指導されたのだろうか、メイド服な姿の九郎は頬を染めたまま恥ずかしそうにそう言った。将臣の中で心のボルテージが一気に上昇してしまう。

「た、誕生日のプレゼントは私です…私を貰って下さい、ご主人様…」

更に恥じらいを強くして、これまた望美にこう言えと言われたのだろう言葉を九郎が将臣に向かって言えば、将臣の鼓動が跳ね上がった。

「…もう限界だっ、こんな事で本当に将臣は喜ぶのか、望美…っ?恥ずかしくて仕方がないぞ…っ」

更に顔を赤く染めてもう我慢がならないというくらいに羞恥心を煽られた事を九郎が望美に訴える。が、望美は満面の笑顔でグッと親指を突き立て無言で頷くだけだ。

「…くっ…」

と、将臣が堪えきれずに嘆息のようなものを零し、九郎は機嫌を損ねたとでも思ったのか慌てて将臣の方へ向き直る。

「…ま、将臣…やはりこれでは贈り物になどならないな…済まない…」
「く〜っ!何だよ、お前…その格好反則だろ…っ?」

勝手に勘違いして謝る九郎を、将臣は明らかに上機嫌な声でそう言いながら抱き寄せた。

「ま、将臣…?」

いきなり抱き寄せられて力一杯抱き締められるものだから九郎は困惑して視線を彷徨わせて将臣の名を呼ぶ。それでも将臣は九郎を離そうとはしない。

「…やっべぇ…めちゃくちゃ可愛い、お前…」
「なっ…お前までそのような事を・・・っ」

先程望美にも言われたような事を将臣からも言われて、不服そうに九郎が眉を寄せる。だが、それさえも今や社会現象と言えなくもないツンデレなメイドっ娘みたいで、将臣は益々可愛いと思ってしまうだけだった。

「前に将臣君が向こうでの九郎さんの私服を見て『メイドもいいな…』とか何とか言ってたでしょ?だから九郎さんにメイド服着せてみたの♪」
「…お前盗み聞きしてたのかよ…確かに言ったけど」

盗み聞きしていた事には感心は出来ないが、メイド服を九郎に着せたのは正解だったと思う。将臣は内心で望美の働きに納得した。

「という訳で、九郎さんがどうしても将臣君に何か上げたいって言うからね、将臣君なら物より九郎さん自身の方が欲しいのかなって思った訳よ」

ズバリ的確な所を突いてくる望美である。将臣の様子から見てまさにその通りなのだから九郎も反論のしようがない。

「これってお持ち帰りしても構わないのか?」

案の定早速部屋に持ち帰ろうとする将臣の喜びようは九郎の想像以上だった。望美が将臣の問い掛けにうんうんと首を縦に振る。

「勿論、将臣君への九郎さん自身からのプレゼントなんだから将臣君の好きなようにしていいんだよ」
「よっしゃあ!じゃあ部屋行くぞ、九郎★」

いつの間にそこまで話が発展したんだと疑問に思いながら九郎は、将臣に連れられて早々にリビングから退出する事となった。



足早に九郎を連れて部屋へと戻った将臣は、自室内に入ると、即座に壁際に九郎を追いやってその前に立ち塞がった。

「ま、将臣…どうしたんだいきなり…っ」

有無を言わせない将臣の行動に戸惑いながら九郎がそう言い放つ。が、将臣はそれには答えないでじっと九郎の姿を観察するように見つめている。

「あ、余りジロジロと見るな…将臣…」

人前に女性の装いを晒しているというだけでも恥ずかしいというのに、それをよりによって将臣にジロジロ見られているというのはもっと九郎の羞恥心を煽り立てる。

「…今更恥ずかしがってんのかよ、ホント可愛い奴だなお前」
「…か、可愛いと言うな・・・っ」

可愛いと連呼されるのを困ったように怒る九郎だが、その様子がまた可愛いのだと気付かぬのは本人だけだ。将臣は堪らなくなって短いワンピース調のスカートから覗く九郎のスラリとした足に手を伸ばした。ビクリと九郎の体が強張る。

「ま、将臣…何をする…っ?」

将臣がそんな所に触れてくるという事が何を求めての行動なのか解らない九郎ではなかったが、如何せん時間が時間だけに戸惑いを見せる。まだ外では太陽が元気に輝いている時刻なのだ。

「何って…解るだろ?」

視線で求められて益々九郎は困惑してしまうが、将臣は全く引こうとはしない。下にはまだ望美がいる、出掛けた仲間達だっていつ帰ってくるか解らないのだ。九郎が戸惑うのも無理はないのであるが。

「…お前自身が俺へのプレゼントなんだろ?だったら貰ってもいいよな…?」
「…う…」

確かに望美のアドバイスを受けたにしても九郎が自分で自分を将臣への贈り物にしようと決めた事に間違いはない。望美にメイド服を突き出されて将臣の一番欲しいものは九郎だと言われて、拒めなかったのは九郎だ。

「今、ここでお前が欲しい…いいだろ九郎?」

将臣にそうまで言われては、それ以上九郎には抵抗する理由も意思もなかった。九郎は恥ずかしそうに俯いて将臣の腕に体を預ける。

「さっきの『ご主人様』っての、かなり嬉しかったぜ…もう一回言ってくれよ、名前つきで」

スカートの裾から手を入れて九郎の足を触りながら、将臣は強請るようにそう言う。将臣にオタな趣味がある訳ではないだろうが、男としてメイドには萌えるらしい。
上機嫌で九郎に触れてくる将臣の様子に困惑しつつ、九郎はまたあんな恥ずかしい事を言わされるのかと睨むような視線を向けた。

「…っ、断る…っ、もうあんな恥ずかしい事は…」

先程言った時の羞恥を思い出してか嫌がる九郎に、将臣は追い立てるように九郎に触れる手の動きを直接的なものに変えていく。そして、切なげな視線を向けて、

「…言って、くれねぇのか?今日一日はお前は俺へのプレゼントだろ?」

だったら言ってくれてもいいじゃないかと言わんばかりの様子でそう言った。そんな顔をされては断るに断れなくて、九郎は不本意だと言いたそうな顔でぼそりとそれを口にする。

「…将臣、ご主人様…」

言った途端に恥ずかしさが込み上げてきて、九郎は照れている顔を見られないようにと将臣の胸元に顔を埋めた。すると、不意打ちのように将臣の舌先が九郎の首筋に触れる。

「…っ」

触れた舌先から伝わった痺れにも似た感覚に九郎の体が震えた。それを皮切りに、将臣の空いている手が器用に九郎のシャツの前だけをはだけさせてメイド服を身に纏ったまま淫らな行為を始める。

「…将臣…んっ、…まだ昼だぞ…こんな所で…っ」

最早逃れられない状況な事は頭で理解していながら、九郎は最後の抵抗とばかりにそう言った。だが、将臣は全くお構いなしに九郎を煽るように行為の手を止めない。

「…気にするなって。どうせ暫く誰も帰ってこねぇよ」
「そんな事は…あっ…解らない、だろう…っ?」

まだ周りの事や時刻の事が気にかかるらしい九郎だが、将臣の愛撫がより密度を増すと段々抵抗が抵抗にならなくなってくる。現に、既に九郎の足はもう辛うじて立つのがやっとという感じで震えていた。

「…たまにはこんな風に服着たままってのもいいな…何か逆にエロい感じがするぜ…」
「ん…っ、将臣…そこは…あっ、あ…っ」

震える九郎の足を片手で支え、もう一方の手は下着をずらして九郎の中心に刺激を与えながら、将臣はそんな事を口走る。将臣に触れられる感触に次第に甘い声を抑えられなくなって、九郎はかぶりを振って将臣に縋りつく。
それから九郎が将臣に落ちていくのにそう時間は要らなかった。

「…はっ…あっ…将、臣…あっ…んんっ」
「…九郎…」

とろんと瞳を潤ませて必死で将臣を受け入れるメイド服姿の九郎の可愛らしさに、夢心地な気分で将臣は何度も九郎に愛を与える。

こんなサービス満載の誕生日など、これまで経験した事がなかった。勿論今までは望美と譲を始め、両家の家族総出で祝ってくれてはいたが、今日のこの感動には勝るものではない。
何しろ、本気で一生を添い遂げたいと初めて思った相手から、自分自身をプレゼントにしてもらった上に男のロマンの一つとも言えるメイド服姿まで披露してくれたのだ。これ程嬉しい事はない。

「ん…あぁっ…あっ、は…ぁ…っ」

男の割りに触り心地のいい九郎の肌理細かな肌を堪能する将臣の手の動きに導かれるように、九郎から可愛らしい喘ぎ声が途切れる事無く上がる。それがまた、将臣の中の熱を煽った。

行為の手を止め、九郎をベッドへと連れて行ってそこへ押し倒す。スプリングによって揺れる体を将臣の体躯で覆われ、九郎は僅かに我に返って将臣を見上げた。

「…将臣…?」

問い掛けるような九郎の声を擦り抜けて九郎の肩越しに顔を寄せた将臣から、熱い吐息が零れ落ちて。

「…悪い、九郎…ちょっと加減出来る自信がねぇ…」
「え…?」

呟くような低音の声が掠れがちにそう言ったと思うと、九郎は自分の体が一瞬浮遊したような感覚に襲われる。そして、次の瞬間には余裕を失くした将臣によって慣らされもしないまま猛るモノを受け入れさせられた。

「あぁ…っ、あっ!」

無理矢理に侵入してきた異物の痛みに瞳を潤ませながら、けれど切羽詰ったような将臣の眼差しに囚われて九郎は嬉しいようなくすぐったいような感覚になる。

「ホント、最高のプレゼントだぜ…九郎」
「将臣…っ、あっ…あぁ…っ」

空調も利いていない噎せ返るような部屋の中、増していくばかりの互いの体温を感じながら抱き合う。
今が真夏の真っ昼間だという事も忘れたかのように、将臣は可愛らしい九郎に愛を注ぐ事に没頭している。そしてまた、九郎もそれ程の愛情で将臣に求められて悪い気はしなかったし、次第に他の事など考える余裕も失くしていった。

そうして、階下では望美が上の様子に聞き耳を立てている事など将臣達は露知らずで。
そんな風に将臣と九郎は、日が傾き出掛けていた仲間達が戻ってくる僅か前まで何度も体を重ね合うのだった―――。



昨年の夏に一回きり無料配布した本からの微量に修正したversion・第二弾です。
またまた修正といっても誤字直した程度ですが…久しぶりの更新なのにな…(´д`;)

相変わらず暴走特急なうちの望美が女を捨てた行動を取りまくっていますね…(笑)
コンセプトは表向きは将臣の誕生日祝いですが、裏向きは『メイド服を着たままご奉仕する九郎』だったり…して。
果たしてそれが上手く表現出来ているのやら(^^;ゞ

というか、そろそろ無料配布本の転載とかでなく新作をアップしたい…んですがね。
何にもイベント参加してない今の時期だからこそ、常日頃から課題にしつつ達成出来ていない更新率の改善を図りたいです。
有言不実行の連鎖を断ち切りたいこの頃…。そんな私です。

07,6,09UP



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